ウィンザー城

ウィンザー城

イギリス・バークシャー州ウィンザーに建つ英国王室公邸の一つ。1070年頃にウィリアム1世がモット・アンド・ベーリー形式の砦として築き、現存する居住者を持つ城としては世界最大、ヨーロッパで最も長く使われている王宮である。エリザベス2世晩年の主居としても知られる。

3行サマリ

  • 1070年頃ウィリアム1世がノルマン式砦として築き約950年現役使用される英国王宮。
  • 居住者ある城としては世界最大の床面積を誇り、現役王宮として欧州最古の歴史を持つ。
  • 1992年の大火災後の修復で甦り、エリザベス2世晩年の主居として親しまれた王城。

歴史

ロンドン中心部から西に約34km、テムズ川南岸の小高い丘に建つこの巨大な城館は、ノルマン征服直後の1070年頃にウィリアム1世が築いた木造砦を起源に、約950年にわたって歴代英国王が改築を重ねてきた稀有な「使われ続ける王宮」である。床面積はおよそ45000平方メートルに及び、住居者がいる城としては世界最大、ヨーロッパで現役使用される王宮として最古の歴史を持つ。 ウィリアム1世が築いた当初の砦は、人工の塚(モット)と中庭(ベーリー)を組み合わせた典型的なノルマン式防御施設で、ロンドン周辺へのノルマン支配を投影する戦略的拠点であった。ヘンリー1世(在位1100-1135)以来、歴代の英国君主が常用する王宮として機能し、ヘンリー2世期に木造防壁が石造に置き換えられ、最初の石造キープ(中央塔)が築かれた。13世紀のヘンリー3世が西部に建設した防壁は、現存最古の城壁として今も残る。1350年にエドワード3世が大規模な再建に着手し、中世イングランド最大の世俗建築事業と呼ばれた一連の宮殿群が成立した。 テューダー朝にはヘンリー8世とエリザベス1世がしばしば宮廷の場として利用し、外交儀礼の中心となった。1640年代のイングランド内戦では議会派の軍事拠点となり、チャールズ1世が処刑直前の幽閉地として使われた史跡でもある。1660年の王政復古後、チャールズ2世が建築家ヒュー・メイの協力で大規模な改修を行い、豪奢なバロック様式の内装を整備した。18世紀の一時的な放置期を経て、ジョージ4世期の1820年代に建築家ジェフリー・ワイアットヴィルがゴシック・リヴァイヴァル様式で大規模な再建を断行し、現在見られる城のシルエットの大部分はこの時期に確定した。1824年から1866年にかけてジョージ4世、ウィリアム4世、ヴィクトリア女王の3代によりステート・アパートメント(公式諸間)が整備された。 第一次世界大戦中、ドイツ語に由来する王朝名サクス=コーバーグ=ゴータ朝への国民感情の悪化を受け、1917年にジョージ5世が「ウィンザー朝」への改名を行い、王朝の新名称は当城に由来している。第二次世界大戦中はジョージ6世期にロイヤルファミリーがロンドン空襲を避けてここで生活した。1992年11月20日に発生したステート・アパートメント火災では床面積の約5分の1が損傷し、1994年から1997年にかけて慎重な修復事業が行われた。エリザベス2世は晩年の2011年から崩御の2022年まで、ロンドンのバッキンガム宮殿に代えてウィンザーを主居とした。

文化的意義

ウィンザー城は約950年間、特定の機能(王室公邸)を保ったまま絶えず改築を重ねてきた極めて稀有な事例として、建築史的にも王権史的にも重要な位置を占める。ノルマン軍事建築から始まり、中世ゴシック、テューダー宮廷文化、バロックの華やぎ、19世紀の歴史主義による再生、そして20世紀の火災後修復まで、各時代の様式が積層する一つの「英国建築史の縮図」となっている。城内のレオナルド・ダ・ヴィンチ手稿コレクションをはじめとするロイヤル・コレクションは、君主が個人として収集した美術資産が国家文化資産として継承された欧州君主制の文化財管理モデルの先進例でもある。

建築的特徴

敷地は約5.3ヘクタールに及び、地形に沿ってロウァー、ミドル、アッパーの3つの郭(ウォード)に分かれる。ミドル・ウォード中心の人工塚(モット)上には円形の中央塔(ラウンド・タワー)が立ち、12世紀の原型に19世紀のジェフリー・ワイアットヴィルによる約9mの増築が加えられて現在の威容となった。アッパー・ウォードはステート・アパートメントを擁し、ロココ・ゴシック・バロックを折衷した内装で19世紀英国王室の趣味を集約する。ロウァー・ウォードに位置する聖ジョージ礼拝堂は15世紀後半のエドワード4世期に起工された後期ゴシック垂直式(パーペンディキュラー・ゴシック)の傑作で、ヘンリー7世期に完成した扇形ヴォールト天井と精緻なトレーサリーが特徴である。礼拝堂はガーター騎士団のための国教会礼拝施設であり、王室墓廟としてはウェストミンスター寺院に次ぐ重要性を持つ。

訪問ガイド

ロンドン中心部からは鉄道で約30分、ウォータールー駅またはパディントン駅から乗換を含む経路で到達する。最寄駅はウィンザー・アンド・イートン・セントラル駅とウィンザー・アンド・イートン・リバーサイド駅の2駅で、いずれも徒歩圏内である。城は現役の王室公邸であるため、国王滞在の時期や公式行事、警備上の都合により公開区画と公開時間が変動する。最新の入場料・公開区画・予約方法は公式サイトで必ず確認すること。週末は混雑が顕著で、平日午前の早い時間帯が比較的落ち着いて見学できる。城内では聖ジョージ礼拝堂、ステート・アパートメント、メアリー王妃の人形の家などが主要見どころとなる。城門前で行われる衛兵交替式は無料で見学可能だが、開催曜日・時間が季節により変動するため事前確認を推奨する。

周辺スポット

ウィンザー城の裏手にはアスコット競馬場まで約65平方kmにわたって広がるウィンザー・グレート・パークがあり、王室狩猟林の名残を伝える広大な森林・芝地と古樹群を散策できる。テムズ川を挟んだ対岸のイートンには名門パブリックスクールのイートン校(1440年ヘンリー6世創設)があり、伝統的な制服を纏う生徒の姿が街並みの一部を形成している。さらに南東のランニーミードはマグナ・カルタ署名(1215年)の場として英国憲政史上きわめて重要な草原で、城から自動車で十数分の距離にある。

現代における価値

ウィンザー城は、特定の機能を保ったまま9世紀以上にわたり実用され続ける建築という、文化財保存と現役運用の両立をめぐる現代的議論の最も成功した事例の一つである。1992年火災後の修復事業では、保険対象外の修復費用を捻出するためにバッキンガム宮殿の夏季公開と城内入場料収入を充てる「ロイヤル・コレクション・トラスト」方式が確立し、王室文化財の自立財政モデルとして他国にも参照された。観光と王室の現役機能を同居させながら世紀を超える建築を保存する仕組みは、世界中の歴史的居館の運用設計に示唆を与え続けている。

外部リンク

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