奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島は、鹿児島・沖縄両県の4島5構成資産からなる日本5番目のユネスコ世界自然遺産。アマミノクロウサギ・イリオモテヤマネコ・ヤンバルクイナら更新世初期に大陸から隔離されて独自進化を遂げた多くの固有種が亜熱帯雨林で生息する、生物多様性の宝庫として2021年に登録された。

3行サマリ

  • 鹿児島県と沖縄県の4島5構成資産からなる、日本で5番目のユネスコ世界自然遺産である。
  • 更新世初期に大陸から隔離されて独自進化を遂げた、固有種率の高い亜熱帯雨林の宝庫。
  • アマミノクロウサギ・イリオモテヤマネコ・ヤンバルクイナら絶滅危惧種の生息地である。

歴史

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県の沖縄本島北部(国頭村・大宜味村・東村のやんばる地域)と西表島の4島5構成資産からなる、日本で5番目のユネスコ世界自然遺産である。総面積426.98平方キロメートルで、亜熱帯雨林の常緑広葉樹に覆われた森と海岸、河川を含み、世界遺産登録基準(10)「生物多様性の本来的保全にとって最も重要かつ意義深い自然生息地」を満たすとして2021年7月26日に登録された。 登録運動の発端は2003年で、環境省と林野庁が共同で設置した「世界自然遺産候補地に関する検討会」が、知床・小笠原諸島とともに「琉球諸島」を候補地に選定したことに遡る。知床(2005年)・小笠原諸島(2011年)が先行して登録される間、琉球諸島の手続は地権者調整や保護法の整備が進まずに長く停滞していた。 2013年1月31日に世界遺産条約関係省庁連絡会議が「奄美・琉球」を世界遺産暫定リストに掲載することを決定。同年12月に対象4島が確定したが、暫定リスト掲載書類で具体的な島名を記さず緯度経度のみを表記したため、世界遺産センターから記載保留となり、2016年2月の再申請を経て正式に暫定リストに掲載された。これに合わせて2016年3月に西表石垣国立公園が西表島全域に拡大、同年9月15日に沖縄本島北部がやんばる国立公園として新たに指定され、2017年3月7日には奄美大島・徳之島・喜界島・沖永良部島・与論島を範囲とする奄美群島国立公園が成立して保護体制の整備が一気に進んだ。 名称は当初「奄美・琉球」であったが、奄美群島が琉球諸島に含まれないという地理学上の問題と鹿児島県側の強い要望から、2017年に現在の地理的に正確な名称へと変更された。2017年10月のIUCN現地調査を経て、2018年5月にIUCNが北部訓練場返還地を含めた範囲再考と奄美大島の連続性確保を求めて「登録延期」を勧告したため、推薦は一度取下げられた。 登録延期勧告を受けて推薦内容が修正され、2018年6月29日には在日米軍北部訓練場返還地のうち約3700ヘクタールがやんばる国立公園に編入された。同年9月12日には世界自然遺産候補地科学委員会が、返還地約2800ヘクタールを推薦区域に編入し、登録基準から「生態系」を外して「生物多様性」のみに絞ることを決定した。新型コロナウイルス感染症の影響で延期された第44回世界遺産委員会が2021年7月にオンライン形式で開催され、再推薦は晴れて登録に至った。 登録地の保護根拠は、自然公園法による奄美群島国立公園・やんばる国立公園・西表石垣国立公園を中軸として、生物多様性基本法(国内自然遺産で初適用)、文化財保護法による天然記念物指定、種の保存法、外来生物法、森林法、河川法など複数の法制を重層的に組み合わせる。緩衝地帯が一部設定されない区域では、北部訓練場残余地の治外法権が実質的に開発を抑止しており、保護法の枠外の地理的条件が偶発的な保全機能を果たしている。

文化的意義

本世界遺産は、更新世初期(約200万年前から170万年前)に大陸から隔離された琉球弧の自然史を、生物多様性として現代に伝える稀有な遺産である。総面積わずか427平方キロメートルの登録地に、維管束植物1819種(うち固有種189種で約10パーセント)、陸生哺乳類21種(固有13種で62パーセント)、鳥類394種(固有5種)、両生類21種(固有18種で86パーセント)、陸生爬虫類36種(固有23種で64パーセント)、内水魚267種(固有14種)、昆虫6153種(固有1607種)を擁し、固有種率は世界自然遺産のなかでも極めて高い水準にある。アマミノクロウサギ・ヤンバルクイナ・ノグチゲラ・ルリカケス・イリオモテヤマネコといった大型固有種は、それぞれが島ごとの長期隔離による独自進化の証であり、島嶼生物地理学の生きた教科書として国際的に評価される。

訪問ガイド

登録地は4島に分かれているため、訪問は島ごとの周遊計画が必要となる。奄美大島は鹿児島空港から空路で約1時間または鹿児島港からフェリーで約11時間、徳之島は鹿児島空港から約1時間。沖縄本島北部やんばるは那覇空港から車で約2時間、西表島は石垣島からフェリーで約45分でアクセスできる。やんばる国立公園と西表石垣国立公園では、認定エコツアーガイド同伴の自然観察プログラムが整備され、特に夜行性のヤンバルクイナ・アマミノクロウサギを観察するナイトツアー、西表島のマングローブカヌー、由布島水牛車などが定番である。最新のツアー予約状況・入域料・利用ルールは各国立公園公式サイトで事前確認したい。固有種保護のため、自家用車での野生動物観察(特に夜間の路上観察)はロードキル防止のために制限がある区間があり、認定ガイド同行が推奨される。雨季と台風期は欠航の可能性があり、訪問は3月から5月、10月から11月が比較的安定する。

周辺スポット

奄美大島では、登録地周辺に金作原原生林ガイドツアー、奄美自然観察の森、住用湾のマングローブ、奄美大島世界遺産センター(2022年開館、住用町)が集まる。徳之島では闘牛文化と犬田布岬の景観が島文化の象徴、犬の門蓋・ムシロ瀬の海蝕地形が観光の核となる。沖縄本島やんばるでは大石林山、ヤンバルクイナ生態展示学習施設(クイナの森)、辺戸岬から眺める沖縄最北端の海岸景観が定番である。西表島では浦内川クルーズ、ピナイサーラの滝、由布島・小浜島・竹富島・石垣島と続く八重山周遊が組みやすく、4島を一度に訪れる行程は最低でも7日以上を見込みたい。

現代における価値

本世界遺産は、米軍基地返還地の世界遺産編入という前例のない経緯を持ち、安全保障と環境保全の同居という現代日本の課題を直接体現する。返還地でのオスプレイ部品落下や戦時の不発弾、廃棄物の問題は、登録後も地元自治体と国の継続的な協議事項となっている。マングース駆除事業によって2024年に奄美大島でマングースが根絶されるなど、外来生物防除の国際的なモデル事例も生まれている。観光地としての受容能力と固有種保全の両立は容易でなく、エコツーリズム認定制度の整備、入山規制、認定ガイド同行制の導入は、日本の自然遺産が観光と保全の均衡をどう探るかを示す現在進行形の事例である。

外部リンク

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